食肉目の多くの動物たちはライオンやヒョウのように草食獣を狩って食べているわけではない。日本に生息するツキノワグマの頬歯を見ると、前臼歯の最後位の歯の裂肉歯↓を除いて前臼歯3本は豆粒状であり、2本の臼歯は大きくて咬面は平だ(図1&2)。尚、ツキノワグマの上顎の歯式は、3・1・4・2である。
図1.ツキワグマUrsus thibetanusの頬歯と裂肉歯↓
図2. ツキノワグマの裂肉歯↓
ツキノワグマの頬歯を見ると、ネコやヒョウの食肉目ネコ亜目の動物の歯とは違う。ネコ亜目ネコ科の動物では前臼歯が3本で1本は小さいが他2本は大きく鋭く尖っており、臼歯は用をなさない豆粒状だ(図3)。ツキノワグマの前臼歯は4本だが、最後位の裂肉歯だけが大きく他の3本は使用に耐えないほど小さい。しかし、臼歯は2本とも大きく食物を潰すような臼状になっている(図1&2)。図3.ライオンPanthera leoの裂肉歯cと臼歯m独協医科大ライオンから
つまり、ツキノワグマの頬歯は2本の大きな臼歯が食物を潰すのに大きな役目を果たしている。そのため、糞は果実の種子は潰れないが、大量に同じ物を食べて磨り潰したような糞だ(図4&5)。
ツキノワグマの動きでは素早く動くノウサギやシカ、カモシカなどの草食獣を捕まえるのは無理だ。だから当然動かない植物質の物に頼ることになるのだろう。それが頬歯に表れているのだ。小さな裂肉歯を含む前臼歯は肉を引き裂いて食べるには大した用はなさない。大きな臼状の二つの大臼歯が根茎、葉、果実、堅果を磨り潰して食べるのに適しているのだ。もっと丁寧に噛んで種子まで磨り潰して食べた方がカロリーを多く摂取できるのにっと考えてしまう。
図4.アオダモの果実を食べたツキノワグマ糞20100921ハタチガ沢で
図5.ヒグマUrsus arctos糞20170814釧路湿原
図5’. 図5のヒグマ糞の内容物(不明な種子)
そう、野生動物の食物で興味深い事は、クマやカモシカはドングリなどの堅果はしっかり噛んで潰して食べるが、果実の中の小さな種子は消化されないで糞となる。ニホンザルはアケビを食べる時黒く大きな種子は口からポロポロ吐き出す。糞としても出てくる。しかし、モミジイチゴを食べる時は小さな種子は糞として出される。テンはアケビもモミジイチゴも種子は糞としてだされる。ぼくらがスイカやブドウを食べる時は種子が気になって出すが、そのまま種子も飲みこんでしまう。クルミを食べる時は割って中の子葉部分を食べる。が、クマの場合は丸ごと齧って飲みこんでしまう。タヌキやテンがギンナンを食べる場合は、ギンナンの果肉を食べて種子のギンナンは糞として排出される(図6)。
図6.タヌキNyctereutes procyonoides溜糞の中のギンナン 榛の木丸で20271108
結局、ヒトを含めて動物が食物のどの部分を求めているかによって食べ方も違ってくる訳だ。
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