先日、教え子のK.Uさんから齧歯目の幼獣の死体がチルド便で送られてきたが、この幼獣が齧歯目であることは口を開けて切歯や臼歯を見て分かった。しかし、ネズミ科なのかリス科なのか、あるいはヤマネ科なのかはたまたカプロミス科のヌートリアなのか科Familyさえも同定できない。
陸上性の哺乳類の目Orderの系統段階は歯で同定することができる。
下の写真は関東地方に生息する食肉目の動物の幼獣の頭骨を上面から撮ったものだ。
食肉目はイタチ科やアシカ科を除いては前頭骨から横に張り出てくる後眼窩突起は明確だ。
しかし、下の2種類の食肉目の頭骨の後眼窩突起はまだ未発達だ。
赤線で囲った部分の後眼窩突起の張り出しが弱い。
同じ頭蓋を裏(底面)から見たものだ。
幼獣のため、切歯・犬歯以外の上顎骨から出ている歯は乳歯の前臼歯と考えられる。
さぁー、皆さんこれら二つの頭蓋骨の持ち主を同定してください。
尚、左側の頭骨は東丹沢伊勢沢左岸の尾根のスギ林内で見つけ、骨片を拾って組み立てた。
右側はぼくが住む湘南台地区の道路で車に轢かれて泣いていたのが持ち込まれたが死亡した。
同じ目Family内の幼獣の同定は難しいですね。
では、成獣(左)の頭骨と並べて正面からのものを見てください。
先ずは、尾根のスギ林で見つけたもの、右側が幼獣です。
赤い線で囲った部分は眼窩下孔です。
これは、車に轢かれて泣いていた個体(右)です。
幼獣と成獣でも眼窩下孔の大きさは変わりませんね。
成獣の頭骨もアップしたので、もう同定できましたか?
これでどうですか?
左右の頭骨の配置は一番上の写真の幼獣のものと同じです。
赤線で囲ったのが後眼窩突起ですネ。
幼獣と成獣では脳が納まる部分のサイズは幼獣と成獣では変わらず、食物を最初に咀嚼する部分の前頭部分が大きくなることを拙著「頭骨コレクション」でお話ししました。
幼獣から成獣に成長するにつれて前頭部分が前に突出して大きくなるとともに後眼窩突起が大きく発達することがわかります。しかし、眼窩の大きさと眼窩下孔の大きさはほとんどかわりません。
これは、食肉目に共通した特徴であり、陸上性の鯨偶蹄目の場合は前頭部が大きくなることは同じだが、後眼窩突起の特徴は顕著ではありません。
これは、食肉目は晩成性の状態で生まれ、鯨偶蹄目は早成性で生まれてくることに基づいているのでしょう。
となると、晩成性のカイウサギと早成性のノウサギでは、幼獣の前頭部の突出にも違いがある?
さて、幼獣の頭骨の持ち主、左がタヌキで、右がハクビシンです。
以上、幼獣の系統上の目Orderは同定できるが、科Familyや属Genus、種Speciesとなると難しいですね。でも、頭骨以外に他の身体の部分があると容易になります。