Fig.1はタヌキの頭骨である。右がオトナで左がコドモの頭骨だ。オトナの頭骨はコドモの頭骨から顔面頭蓋と云われる口吻部分が大きく突き出しているが、脳が治まる頭頂骨部分などの脳頭蓋はそれほど目立って大きくなっていない。
Fig.1 タヌキの頭骨 左:コドモ(上顎の臼歯はまだ) 右:オトナ
Fig.2はハクビシンの頭骨だ。タヌキと同じようにオトナの頭骨はコドモのものと比べると口吻部分が大きく突き出しているが、頭頂骨部分は大きくは変わっていない。
Fig.2 ハクビシンの頭骨
左:オトナ 右:コドモ(上顎の臼歯はまだ)
Fig.3はブタとイノシシの頭骨である。ブタはイノシシから家畜化された動物だ。ブタは脳頭蓋部分はイノシシと大差無いが、口吻部分が著しく短くなっている。
ん?この違いは、ブタはイノシシのコドモの頭骨をもったままオトナになったって言うことだ!
Fig.3 イノシシの頭骨
左:ブタ♂ 右:イノシシ♀
Fig.4はカイイヌの頭骨だ。左がビーグルで、右が鼻が潰れたシーズかパグなどの小型犬だと思う。ビーグルは小型犬?だが、狩猟用に改良された犬種なので、形状としてはイヌの祖先であるオオカミが持つような頭骨になっているのだろう。一方、シーズやパグは愛玩用の犬だ。ビーグルとシーズorパグの頭骨を見比べると、ビーグルのコドモがそのままオトナになったのがシーズorパグの頭骨だ。
Fig.4 カイイヌの頭骨
左:ビーグル 右:小型犬(シーズorパグ?)
イノシシからブタへの家畜化とオオカミからイヌへの家畜化のプロセスは異なるが、これらの両者は、ヒトからの残り物の食物を得ることによって、口吻部分が縮小したと思われる。つまり、タヌキ、ハクビシン、イヌは離乳期に親から半分消化されたものを食べるが、離乳期を過ぎると自分で獲物を探し回るようになる。イノシシでは離乳後すぐ食物を漁って動き回らなくてはいけない。野生動物は大人になるにつれて食物を摂るための口吻が発達することになる。
しかし、家畜されたブタではいつもヒトの食物の残り物の切って焼いたり煮たりした半分消化されたものを食べることになるので、口吻の成長・発達は促されない。愛玩犬の場合は小犬のように口吻が伸びていない可愛いい顔を持ったイヌが選ばれるようになる。
ブタやシーズorパグが家畜だが、家畜化される前の祖先のイノシシやオオカミとは家畜化のプロセスは異なるが、頭骨に関しては、コドモの頭骨の形状をもったままオトナになったとも云える。云わばイノシシの幼体成熟(ネオテニー)がブタであり、オオカミの幼体成熟がシーズやパグなどの小型犬だと云える。
ウリボウ(イノシシのコドモ)の頭骨があったことを思い出した(Fig.5)。
Fig.5 イノシシの頭骨
左:オトナ♀ 右:ウリボウ(上顎第一前臼歯がまだ出てない)
ウリボウは顔面頭蓋の口吻部分ばかりでなく脳頭蓋も全体的に小さい。ん?では思ってシカやカモシカのオトナとコドモを見た。オトナはコドモの口吻部分が目立って突き出している(Fig.6&Fig.7)。
Fig.5のウリボウは生後間もない時期に死んだ(滑落だと思える場所で死体を見つけた)と思える。しかし、Fig.6&7のシカやカモシカは生後1、2ヶ月は経っている個体だった。
つまり、幼体成熟とは言ってもinfantではなくてjuvenileの頭骨の形状のままオトナになったと云うことになる。
Fig.6 シカ♀の頭骨比較
左:コドモ 右:オトナ
Fig.7 カモシカの頭骨比較
左:コドモ 右:オトナ