このニホンザルオスの頭骨を含む死骸は2000年の春に丹沢で見つけたものだ。
1999年の冬まで、馬の背群についていた個体であると考えられる。
当時は、背が曲がり、四足も肘、膝が十分曲げられないような状態で、ヨタヨタと群れの移動についていた。
頭骨を上からみるとこんなに立派だ。眼窩の上が隆起し、矢状縫合も隆起している。

正面から、え?と思えるほど歯がなくなっていたり、曲がっている。
こんな歯でどうやって冬芽を食べたり、樹皮を剥がして食べていたのだろう。

何故か、下顎の左右の長さが違ってきている。口が曲がっていたのだ。
歯がほとんど歯根の近くまで磨り減っているため、左第一臼歯は歯根まで磨耗し、二つに割れている。
前臼歯・臼歯は揃っているが、左犬歯は子供の時に消失したのだろう。無くなった後治癒している。
左犬歯と共に左切歯が2本とも消失したのだろう。恐らくオス同士のケンカであろう。
右の犬歯と2本の切歯は凄く磨耗している。

下顎の歯ほど磨耗していないが、歯槽骨が後退し歯根が見える。右犬歯は左犬歯の半分以下の長さに磨耗し、左第一切歯が消失しているため(下顎の左犬歯と切歯と同時に消失したのだろう)、左第二切歯と右第一切歯が消失側に曲がっている。



野生動物は、食べることができないと死である。
この歯では枝を噛み切ることも大変だったことだろう。
この左の上下の犬歯を磨り合わせて噛み切っていたのだ。下の犬歯も上の犬歯も磨耗がひどい。
老齢のため歯槽骨が減って、歯根部分がでてきている。
この個体は恐らく、子供の時に群れに接近したオトナオスによって顔面を咬まれて左の下顎の犬歯・2本の切歯と左上顎の第一切歯を咬み取られたものと考えられる。
子供の時に口の前の一部が無くなったため、かなりのハンディを持って生きながらえてきたこの個体に凄く愛着を感じる。