友人のY.Narita氏から貰った秩父のメスのツキノワグマUrusus thibetanusの下顎の切歯の並び方が横一列でないことをアップした。図1のA,B,Cの下顎の切歯の並び方を見て、最初はBが第一切歯かと思ってしまった。
図1. 秩父のメスのツキノワグマUrsus thibetanusの頭骨
図1の下顎の切歯の並び方と同じようなものが図2の下顎の切歯である。これは2001年に東京農工大の大学院で「サル学」について集中講義をした。その時に中国からの留学生と知り合い、彼から中国生息のげっ歯目などの小哺乳類の頭骨をいくつかもらった。その中の一つにステップケナガイタチMustera eversmanniの頭骨(図2)が入っていた。 その下顎の切歯の並び方が通常の並びと違うので覚えていたのだ。このM.eversmanniではA,B,Cの内のBが第二切歯だと確信できない。
図2.ステップケナガイタチMustela eversmanni
図3は、2004年3月のキンシコウ調査で沢沿いを歩いていた時に岩の上にあったテンの死体(図4)の下顎骨である。この石貂Martes foninaの下顎の切歯を見ると第二切歯が内(舌)側になっている(図3)。このM.foninaの下顎の切歯の並びから類推するとメスツキノワグマ(図1)の下顎のBは第二切歯が萌出した部分である。
図3.石貂Martes foina
図4.秦嶺山脈の山麓の沢沿いで見つけた石貂の死骸
日本産の食肉目の下顎の切歯を調べたらテンMartes melampusでも第二切歯が舌側に入り込んでいる(図5)。それはイタチMustera itachiでもそうであった(図6)。図5.テンMartes melampus
図6.イタチMustela itatsi
以上にように、下顎の切歯が下側に入り込むのは第二切歯で、しかもこの第二切歯が他の2本の切歯よりも大きく、第一切歯は非常に小さい。これは、どういうことを意味しているのだろうか?将来のテンやイタチの下顎の切歯は第一切歯が消失し、第二と第三切歯がウサギの上顎の大小の切歯のように内側と外側に並ぶのだろうか? さて、秩父産のツキノワグマがメスだと判ったのは、側頭骨が横に大きく張り出ていなくて、さらには下顎の第二切歯が舌側に入り込んでいることが判った。
哺乳類の歯式や歯の形状はその動物種の食性と大きく関わっているが、歯で性差が見られるにはサルやイノシシだけで、それも犬歯である。性差は性行動に関係している。ツキノワグマの下顎の切歯で見られる性差は、両性の性行動のどのような違いによって生じたのだろうか?これからの課題だ!
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